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日本水産油脂協会

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知っておきたい基礎知識

水産油脂
 水産油脂とは、近年は生産量の多い魚油を指している。魚油は、原料となる魚(イワシ、サバ、スケソウダラ等)を煮熟し、煮汁の中から油を分離したものである。また、魚の肝臓だけを原料にして作られた油を肝油という。
 魚油の用途は、古くから硬化してマーガリン、ショートニングの原料として使われ、最近では水産養殖魚の飼料に多くが使われている。更に魚油中の脂肪酸に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、血中コレステロールの増加抑制、発ガン予防、老化防止の効果等が報告されている。
油やけ
 イワシやサバなどの脂肪含量の多い魚類の乾製品、塩蔵品、煮干などで、乾燥中および貯蔵中に脂質酸化が進んで、黄色ないし赤褐色に変化する現象をいう。
 脂質の自動酸化により生じたカルボニル化合物が原因物質とされているが、着色物の化学構造は不明である。
 油やけしたものは、色調の劣化のみならず味や香りなど風味の劣化も著しい。
 酸化を防ぐ簡単な方法はなく、実際には酸化促進要因の除去と酸化反応を阻止する方法を組み合わせて、その効果を期待している。
 即ち、1.酸素との接触を避けるため、ガス置換包装あるいは脱酸素剤を使用する。
     2.抗酸化剤を使用して酸化反応を抑える。
エイコサペンタエン酸(EPA)
 海産の生物に広く分布している。魚では青みの魚やマグロなどの脂質に多く含まれ、炭素数20で、二重結合が5つある不飽和脂肪酸である。マイワシでは日本海産はDHAより高い含量を示すことがある。
 代謝物であるホルモン様な活性を示すエイコサノイド(プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエン)はn−6系脂肪酸のアラキドン酸の代謝物とは生理活性が大きく異なる。EPAは血栓症の低減に効果が認められ、1990年に医薬品として認可された。
ドコサヘキサエン酸(DHA)
 海産の生物にEPAと同様広く分布し、魚類には特に多く含まれる脂肪酸である。炭素数22で、二重結合が6つある不飽和脂肪酸である。
 DHA摂取により血清コレステロールのうちHDLには影響は少なく、悪玉コレステロールとよばれるLDLは顕著に低下する。また血清トリグリセリドの低下作用が認められ、アトピー症状の改善等の報告もあり、調製粉乳、卵、水産加工食品等への添加が行われている。
 なお二重結合が多く酸素と結合しやすい活性メチレン基を5つ有することから空気中では酸化劣化が著しく速い。
脂肪酸
  • 脂肪酸の基本的な化学構造は、次のように示される。
    CH3CH2CH2・・・COOH
    末端にメチル基(CH3)を、一方の末端にカルボキシル(COOH)をもつ。このメチル基とカルボキシル基の間に炭化水素(CH2など)をゼロから複数個結合している。
  • 炭素数が2から6のものを短鎖脂肪酸、8から10のものを中鎖脂肪酸、12以上のものを長鎖脂肪酸といっている。
  • 炭素数2は酢酸(CH3COOH)、炭素数3はプロピオン酸(CH3CH2COOH)である。
  • 天然の脂肪に含まれる脂肪酸は殆ど長鎖脂肪酸である。
  • 脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある。
飽和脂肪酸
 脂肪酸の中で、二重結合をまったくもたないもの。食品には、炭素数4から20までのものが含まれている。よいエネルギー源となる。代表例がパルミチン酸とステアリン酸である。  (食品の百科事典より)
不飽和脂肪酸
 不飽和脂肪酸は、一個以上の二重結合(CH=CH)を含む。
高度不飽和脂肪酸
 多価不飽和脂肪酸ともよばれるが、二重結合2つ以上のものを多価不飽和脂肪酸といい、4〜5以上のものを高度不飽和脂肪酸ということが多いが、明瞭な区別はされてない。魚油に多いエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などがある。  (食品の百科事典より)
不飽和脂肪酸の炭素と二重結合の位置の表わし方
不飽和脂肪酸中の炭素の位置および二重結合の位置を表わすのに二通りの方法がある。

  • カルボキシル基側を基点にする方法
    カルボキシル基(COOH)の炭素を1位の炭素(1C)とし、メチル基側に向かって順次2位(2C)、3位(3C)、4位(4C)・・・・とし、メチル基の炭素をn位(nは総炭素数)として炭素の位置を表わす。
    二重結合の位置は、△に炭素の位置数を示す。9位と10位の間にあれば△9と表わす。
    例えば、リノール酸は18個の炭素と2個の二重結合をもっており、その二重結合は9Cと10Cの間および12Cと13Cの間にある。
    18個の炭素と2個の二重結合は18:2と表わし、2個の二重結合の位置を△9,12と表わす。従ってリノール酸はC18:2△9,12と表示される。なお、C18:2(9,12)あるいは単に18:2(9,12)と表示することもある。
  • メチル基側を基点にする方法
    メチル基の炭素に最も近い二重結合をもつ位置を数える。
    例えば、リノール酸CH3(CH23CH2CH=CHCH2CH=CH(CH27COOHは、メチル基に最も近い二重結合がCH3から6番目のCにある。
    CH3から6番目に二重結合をもつ脂肪酸をn−6(エヌマイナス6と読む)系不飽和脂肪酸という。また、これをω(オメガ)6系不飽和脂肪酸ともいわれる。
    CH3から3番目に二重結合をもつ脂肪酸をn−3系不飽和脂肪酸という。また、ω3系不飽和脂肪酸ともいわれる。
共役二重結合
  • 多価不飽和脂肪酸で、二重結合が飽和結合を一個挟んでいる、次の構造のものをいう。
    −CH=CH−CH=CH−
  • 通常の多価不飽和脂肪酸は、メチレン中断型といわれる構造で、次に示すような二重結合の間に2個の飽和結合をもっている。
    −CH=CH−CH2−CH=CH
  • 近年では、共役二重結合の機能が注目されている。例えば共役リノール酸は発ガン物質の生成を抑制するといわれ、その他、共役化したEPAやDHAはヒト培養ガン細胞に対して殺細胞作用を示すことが見出された。
  • 天然には牛脂や乳に共役リノール酸が含まれている。
脂肪のどの部分が酸化されるか?
  • 脂肪分子の中で実際に酸化を受けるのは、結合している不飽和脂肪酸である。
  • 特殊な脂肪を除いて、通常の不飽和脂肪酸は次に示す構造をもっている。
    −CH=CH−CH2−CH=CH−
    ペンタジエン構造、メチレン中断型、ジビニルメタン型の二重結合配置とよばれる。
    なお、ペンタとは数字の5の意で、ここでは炭素が5であることを示す。ジとは数字の2の意で、エンとは二重結合をもつ不飽和化合物の接尾語である。
  • 酸化を受ける部分は、このペンタジエン構造のメチレン基(CH2)である。
  • CH2は活性メチレン基とよばれ、光や熱のエネルギーで容易に水素ラジカル(H・)を遊離しペンタジエンラジカル(分子全体では脂肪酸ラジカルL・)を生じる。Lは脂質LipidのLを示す。
  • ペンタジエンラジカルは活性酸素と結合し、不安定なペンタジエンヒドロペルオキシラジカル(脂肪酸ヒドロペルオキシラジカルLOO・)を生じる。
  • このラジカルは、他の不飽和脂肪酸のペンタジエンから水素原子を引き抜き、自身はペンタジエンヒドロペルオキシド(脂肪酸ヒドロペルオキサイドLOOH)になる。
  • LOOHは不安定で、−OOH周辺の化学結合を開裂させ自体の分解に導く。最終的にはアルデヒド類、アルコール類やカルボン酸などになる。
  • L・はLOOと反応して安定なダイマー(二量体)LOOLを生じると反応は終わる。
プロスタグランジン
 体内で作られ、体の生理機能に関連する物質である。
  リン脂質に結合した炭素数20の不飽和脂肪酸(エイコサポリエン酸)から生成される。その不飽和脂肪酸とは、アラキドン酸、ビスホモ−γ−リノレン酸およびエイコサペンタエン酸である。
 リン脂質は、細胞膜を構成する成分であるので、生体内のあらゆる細胞に分布し、そこにはプロスタグランジンの前駆物質であるエイコサポリエン酸が存在する。従って、種々の臓器や体液中で広範囲にプロスタグランジンが生成されている。
  プロスタグランジンは、単一の物質ではなく生理活性の異なる多種類の物質の総称である。
生理活性の主なものは、@平滑筋収縮作用、A血圧降下作用、B抗脂肪分解作用、C血小板凝集阻止作用などがある。
α-リノレン酸
 食事から摂る植物給源のn−3系脂肪酸(α−リノレン酸)は有益であるが、α−リノレン酸(ALA)の摂取効果は、既成のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の場合に比べ低いことが指摘されている。これは既成の長鎖n−3脂肪酸が直接取り込まれるのに対して、ALAが同様の生理効果を発揮するには、鎖長延長と不飽和化による長鎖不飽和脂肪酸への交換が必要であるためとされている。
  ALAの交換について、乳児や成人でDHAへの変換が遅く、経口投与ではALAはごく僅かな割合でEPAとDHAに変換されるが、EPAへの変換が多く、脳の発育のために脳組織へのDHAをALAから得ることは非効率であるといわれている。
構造脂質
 天然の油脂より更に好ましい構造にするため、脂肪酸の部分を人工的に改質した油脂である。天然の油脂は、グリセロール骨格の1、2、3位に多種類の脂肪酸が結合した混合物である。構造脂質は、グリセロール骨格の特定の位置に、化学的あるいは生化学的手法により特定の脂肪酸を結合した脂質をいう。
 グリセロール骨格の1、3位にステアリン酸を、2位にオレイン酸を結合した脂質は、カカオ脂の代用として最も早くから開発された。当初は口どけの良さなど物理的な特徴に注目があったが、最近では栄養・生理学的な観点からも見直され、各種の構造脂質が開発されるようになった。
 これらの構造脂質は優れた物性を有するほか、グリセロール骨格の2位に結合した脂肪酸の機能性が注目されている。1、3位に中鎖脂肪酸が結合し、2位に機能性をもった長鎖脂肪酸が結合した構造脂質は、長鎖脂肪酸だけで構成される天然油脂に比べて、体内で早く加水分解され腸粘膜からの吸収が早いといわれている。術後の患者あるいは高齢者の栄養源として期待されている。
スクアレン
 スクアレンは主に深海性サメの肝臓に多く含まれる油性成分である。普通の油脂(トリグリセリド)とは異なり分子内に酸素を含まず、炭素と水素だけでできているいわゆる炭化水素である。スクアレン分子の炭素数は30で、二重結合を6個も持っている。酸素を含まない炭化水素はトリグリセリドより比重は軽く、例えば大豆油は0.922〜0.932(15℃)に対し0.858(20℃)である。
 サメは魚にはある浮き袋を持たないためスクアレンを浮力確保のために利用しているとの説もある。ヒトでは1日800mg程度作られており、一部は皮脂の成分として存在する。しかし多くはコレステロールを合成するための中間体として使われるためスクアレンの形ではあまり残らない。スクアレンは動物だけでなくオリーブ油などにも少し含まれている。スクアレンは前述のように二重結合を6個持つことで融点は低く、−75℃でも極めて固まりにくい性質を持つ。しかし、酸化されやすいため二重結合を無くして(飽和化)、安定性を高めたものがスクワラン(融点−38℃)であり、低い温度でも滑らかさを保つ特徴を生かし化粧品などにも利用されている。
植物プランクトン
 植物プランクトンは海表面を浮遊しながら二酸化炭素と水から光合成で有機物を作り出す目には見えないくらい小さな生物であり微細藻類とも呼ばれる。海洋では他の生物を支えるとても重要な生物で、陸上における植物のような役割である。植物プランクトンは栄養塩類などの条件が揃えば爆発的に増殖し、これにつれて動物プランクトンも餌の摂取が容易となるために大量に発生する。さらには動物プランクトンを餌とするイワシ、サンマ、サバなどの浮魚には良好な環境となり成長が促進される。植物プランクトンの主な栄養塩類は窒素、リン、ケイ素であり、鉄などの微量な金属も必要であるが、鉄は海水には溶けにくく、海では不足しやすい金属である。例えばオホーツク海の流氷はアムール川から流れ着いたもので鉄の供給源となっており、豊かな海を支えている。
 植物プランクトンの主要なものには珪藻、ラン藻、渦鞭毛藻などがある。魚に含まれる脂肪酸は元をたどればこれらの微細藻類由来であり、DHAは渦鞭毛藻、EPAは珪藻が主な供給源になっていると考えられる。なお、赤潮は植物プランクトンの異常な大量発生であり、栄養塩類が流入しやすい内湾や河口域で発生しやすい。
 うきうお:海面付近を生活圏とする魚種でイワシ、アジ、サバ、サンマ、ニシンなどは小型浮魚と呼ばれる。
動物プランクトン
 動物プランクトンは、水の中に住む遊泳力があまりない動物の総称である。クラゲやオキアミなども含まれるが、ここでは小型魚の餌となるミリ単位の大きさのものに限定する。 動物プランクトンのなかで量も種類もずば抜けて多いのがカイアシ類(英語名コペポーダ)である。名前はボートのオール(櫂:かい)のような長い脚を持つことに由来する。
 北の海では冬季の悪天候でかき混ぜられ栄養塩類が海面に供給され、春になると植物プランクトン(珪藻類)の発生する条件が揃うため爆発的に増殖する(春季植物プランクトンブルーム:spring phytoplankton bloom)。カイアシ類はこれから摂取した栄養を油分として体に貯蔵する。8月から冬にかけてカイアシ類の多くは水深500〜2,000mに潜り、いわゆる休眠状態となる。その後は12月頃に産卵し、翌春の植物プランクトンの大発生に備えて生命をつなぐと考えられている。
 マイワシやサンマなどは餌を求めて回遊するが、カイアシ類が海の表面付近に沢山いる時期にその海域に到着していなければ餌を十分に取れない。このタイミングの良し悪しが魚類(小型浮魚)の資源量の変動が大きい要因の一つとなっている。なお、サンマについてはカイアシ類のNeocalanus 属が主な餌で、サンマの油はこれに由来すると報告されている。
脂肪酸と融点
 脂肪酸は酸の性質を持つカルボキシル基1個と炭素と水素からなる炭化水素部分からできている。炭化水素部分が大半を占めるので、脂肪酸の融点の高低には、この部分の長さと形が大きく影響する。理由は少し専門的になるが、融点は脂肪酸同士の接触面積の多少(ファンデルワールス力)により決まるからである。したがって、炭化水素部分が長くなると脂肪酸同士の接触面積も増すので融点は高くなる。
 一方、炭化水素部分の形は炭素同士のつながり方で決まる。つながり方は2種類あり、一つは炭化水素部分が直線状である飽和結合、もう一つは曲がっている不飽和結合(二重結合ともいう)である。つながり方の大半が飽和結合だが、ここに不飽和結合があるとそこで曲がる。またその数が一つ、二つ、・・・と増えると曲がりがきつくなるだけでなくねじれも生じる。こうした折れ曲がった形では脂肪酸同士の接触面積は直線状より小さくなり融点は下がる。例えばつながっている炭素の数が同じ18であっても、不飽和結合の数が0個のステアリン酸、1個のオレイン酸、2個のリノール酸の融点は、それぞれ70℃、13℃、−5℃と異なっている。
 不飽和脂肪酸のうちトランス脂肪酸について少し補足すると、不飽和結合にはシス型とトランス型の二つがあり、前述のつながり方の説明はシス型についてで、天然はほとんどがこのタイプである。トランス型はシス型に比べて曲がりがだいぶ少ないタイプである。トランス脂肪酸として代表的なエライジン酸は、炭素数が18、不飽和結合の数は一つであり上のオレイン酸と同じである。しかし、その融点はシス型のオレイン酸の13℃に対しトランス型のエライジン酸は43℃と30℃も高い。
脂肪酸組成
 油脂は脂肪酸3個とグリセリン1個から構成され重量比では約9割が脂肪酸であるため、脂肪酸が油脂の性質を支配することになる。脂肪酸組成は油脂を構成する各々の脂肪酸の割合を示すもので(通常%表示)、これを調べることで油脂の性質を簡便に知ることができる。例えば大豆油やナタネ油などは、主な脂肪酸がリノール酸(融点−5℃)、オレイン酸(融点13℃)、リノレン酸(融点−11℃)であるため常温で液状である。一方、ラードは、オレイン酸が一番多いものの、パルミチン酸(融点63℃)とステアリン酸(融点70℃)を合わせるとオレイン酸に近い量になるため、常温で固体である。
 油脂を構成する脂肪酸の種類の数に着目すると、少ない代表格は主要な脂肪酸が5つの大豆油である。これは植物が自分で脂肪酸を作ることができ、しかも必要なものだけであることに関係する。他の植物油脂も主要な構成脂肪酸の種類数は一般的に少ない。動物はリノール酸、リノレン酸など栄養学上必須の脂肪酸を自分で作ることができないため外から取る必要がある。動物は自分で作ったものと外から取ったものが体に共存するため、脂肪酸の種類は植物油脂よりだいぶ多く、0.5%程度以上含まれる脂肪酸の数はラードで10くらい、魚油では20くらいはある。
 脂肪酸組成を調べることで油脂の種類を知ることもできる。前述のように植物は必要な脂肪酸をすべて自分で作るため、脂肪酸組成の変動は一般的に小さく、植物の種類毎に区別することは比較的容易である。一方、栽培環境(特に気温)に合わせて脂肪酸を作ることもある。例えば同じ品種の米でも、栽培地が北と南では北の方が融点の低いリノール酸の割合が高くなる。
 動物油脂は餌の影響を受けること、また陸上動物では体の部位によっても脂肪酸組成が異なることが知られており、ラード、牛脂、鶏油などの区別はつくが、さらに細かくとなると難しい。魚油はDHAやEPAが主成分として含まれるため他の油脂との区別は容易であるが、魚の種類毎となると確実に区別することは一般的に難しい。
魚油の脂肪酸組成
 魚油の脂肪酸組成の特徴は、DHA、EPAに代表される高度不飽和脂肪酸が多く含まれることが一番に挙げられる。これ以外にも脂肪酸の種類が大変多いことがある。脂肪酸組成」のところでも記載があるが、大豆油の主な脂肪酸の種類数は5つに対し魚油では量的に少ない脂肪酸まで含めると50くらいになる。これは魚が食べる餌に由来すると考えられている。
 浮魚(「植物プランクトン」の項参照)は、動物プランクトンを餌としているが、動物プランクトンの餌は植物プランクトンである。したがって、浮魚の脂質は植物プランクトンが作ったものが元であり、動物プランクトンを経由してきていることになる。
 植物プランクトンは全体としてみると脂肪酸組成の幅は大変広く、例えば脂肪酸の炭素数は12〜30程度まであり、魚油の12〜24をカバーしている。また植物プランクトンは陸上の植物に比べ不飽和度の高い脂肪酸が含まれており、珪藻ではEPAを貯蔵脂質として含む種があり、渦鞭毛藻、ハプト藻にはDHAを多く含む種がある。こうした植物プランクトンの脂肪酸組成の特徴からも、魚油との類似性に容易に気づくことができる。しかし、特定の植物プランクトンの脂肪酸組成が魚油に直接的に反映することはない。それは間に動物プランクトンが入っており、代表格であるカイアシ類の種類が多いことに加え、生息する海域や深さでも脂肪酸組成が変化するためである。
 当協会では1980年代のマイワシ豊漁期の脂肪酸組成データを多数保有しており、DHAとEPAの関係をみると漁獲が太平洋側ではEPA>DHAであり日本海側ではDHA>EPAの傾向を示す。しかし、DHAとEPAがそのような関係にあっても、割合の変動はかなり大きく、逆の関係となるサンプルもある。したがって、マイワシではDHAとEPAに限ってみても脂肪酸組成の変化は大きい。
DHA・EPA以外の魚油に特徴的な脂肪酸(エイコセン酸とドコセン酸)
 魚油の脂肪酸というとDHAやEPAに注目が集まるが、サンマではエイコセン酸とドコセン酸を合わせて45%程度含まれることもある。エイコセン酸とドコセン酸はそれぞれ炭素数が20と22で二重結合を一つ持つ構造をしている。
 これらの脂肪酸はマイワシやサバにも含まれ、その合計値は多いもので、それぞれ15%、25%程度である。一方、少ないものでは、サンマ15%、マイワシ1%及びサバ11%程度である。ただし、サンマの15%は極めて稀で、多くは30%以上含まれる。このようにエイコセン酸とドコセン酸はサンマ、サバでは主要な脂肪酸であり、マイワシでも比較的多く含まれることがある。
 エイコセン酸とドコセン酸は片方が多くてもう片方が少ないということはなく、両者は連動して増減する。こうした現象は餌の動物プランクトン(カイアシ類)に由来すると考えられる。カイアシ類は種類によってはワックスが脂質の主成分である。ワックスは脂肪酸と長鎖アルコールが結合したものであるが、カイアシ類のCalanus plumchrus にはエイコセン酸とドコセン酸と炭化水素部分が同じ構造の長鎖アルコールをそれぞれ38%及び32%と極めて高い値で含むものがある。これを摂取した魚はワックスを脂肪酸と長鎖アルコールに分解し、さらに長鎖アルコールは腸粘膜で酸化して脂肪酸に変えて吸収する。したがって、エイコセン酸とドコセン酸を多く含む魚は、上述のようなワックスを多く含むカイアシ類を主に餌にしていたものと考えられる。
魚油と魚の脂質
 魚油は「水産油脂」で記載があるように、魚を原料に製造された油であるが、魚の脂質と厳密には同じではない。魚油の製造法では原料に油の一部が残るが、残りやすい油の成分はリン脂質である。魚のリン脂質にはDHAが多く含まれ脂肪酸組成中30〜50%にもなるため魚の脂質と言うには、残されたリン脂質も取り出すことが必要となる。ただ、魚に含まれるリン脂質の量は1%弱とほぼ一定している。したがって魚に含まれる油の量が10%くらいまで多くなると、魚の脂質中のリン脂質の割合は小さくなり、魚油の製造法で得られた油との違いは小さくなる。なお、魚からほぼ完全に油を抽出するためには有機溶剤を使用する。
魚油の生産
 魚油の主な原料はイワシ、アジ、サバ、ニシンなどの大量に漁獲される魚種である。しかし、国内はもちろん、世界的にも安定して大量に漁獲できる海域は無くなりつつある。国内では、量販店や水産加工場から出る魚の「あら」が主な原料である。工場での製造は、まず原料を加熱しタンパク質を凝固させ水分と油分を分離しやすくしたのち、スクリューコンベアーなどの装置で押し出しながら液汁をある程度除く。出てきた固形分は別の装置で圧搾し、乾燥して粉砕したものがフィッシュミール(魚粉)である。圧搾により生じた水分と油分の混じった液汁は、先の工程の液汁と合わせて遠心分離機により油分を取り出したものが魚油である。
 世界の魚油の生産量は長期に渡って100万トン前後であったが、2014年、2015年と連続で80万トン台になり減少傾向である。今後も世界の漁獲量の伸びは期待できないことから、この傾向は変わらないとみられる。主要な生産国は南米のペルー、チリであるが、このところ両国の減少は顕著である。日本の魚油の生産は、大量に漁獲されたマイワシを主な原料に1978年からは生産量は毎年20万トンを超え1988年には最高の48万トンに達した。その後漁獲量が激減してからは原料不足となり6万トン程度の生産量が長く続いている。
魚油の用途
 2013年〜2015年における世界の魚油の消費量は80万トン台である。ちなみに2014年の消費量の上位国はノルウェー、チリ、日本の順であった。海産魚の成長にはDHAやEPAなどn-3系脂肪酸が必須の栄養素であり、魚油の多くは養魚飼料の原料として使用されている。ノルウェーやチリではサーモン、日本ではブリ、ウナギ、タイなどの養魚飼料の原料になっている。
 「魚油の生産」で記載のように1980年代の日本ではマイワシが大量に漁獲され魚油の生産は年間40万トンを超えた年もあった。その多くはマーガリンなどの原料としてヨーロッパへ輸出された。魚油の利用は植物油脂より安価であったことが主な理由であるが、魚油を構成する脂肪酸の炭素数の範囲が広い(「魚油の脂肪酸組成」参照)ことから、硬化魚油(脂肪酸の不飽和結合を減らす加工処理をした魚油)を配合したマーガリンは、保存中に組織がザクザクになりにくいなど優れた性質を有することもあった。しかし、世界的に養魚飼料の需要が拡大するなかで漁獲量が伸びない状況が長く続き、魚油の価格は2000年代には大豆油やパーム油を上回り2015年には約3倍までに上昇した。こうした価格高騰や、硬化魚油には心臓疾患のリスクを高めるとされるトランス脂肪酸が多く含まれることから魚油の加工油脂への用途は激減した。
 養魚飼料用の魚油については、価格高騰のためその配合割合を減らす研究開発が急ピッチで進み、サーモン養殖ではすでに実用化され大幅な低減が実現している。養魚用の用途に比べれば量的にかなり少ないが、DHA・EPAオイル用の原料魚油は高価格で取引されている。これを精製・濃縮した製品の販売量は欧米を中心に右肩上がりに拡大している。